「ああ、ごめん。雪穂」

「ねぇ、あれって…桜子さん?だよね……」

「だよなあ…。まさかこんな偶然…。桜子の家も昔からこの旅館に来てたけど、まさか旅行に来てたなんて」

私の二十六歳の誕生日。最も会いたくなかった人には間違いない。

朝からウキウキした気持ちだったけれど、途端に沈んだ気持ちになってしまう。 けれど、ここで無視をするのも変な話だし。

ふぅっと大きく息を吸い込むと、私は手を挙げて大きな声で彼女の名を呼んだ。

「桜子さん!」

その私の行動に海鳳は少し戸惑っていたように感じる。

「海鳳と雪穂さん…!  二人も旅行に来ていたの?!」

花のような上品な笑みを浮かべ、桜子さんは嬉しそうにこちらへ走り寄って来た。

彼女が動くたびに、艶っぽい黒髪が揺れる。  桜子さんのご主人である陸人さんは、口角だけを上げて「こんにちは」と私達に挨拶をした。

「陸人さんもこんにちは、先月ぶりですね。 今日は雪穂の誕生日で、一泊だけど旅行に来ていたんだ」

「そうなの??雪穂ちゃん、お誕生日おめでとうございますっ」