雪穂には、俺に見せない顔がある。
戸惑いながらも付き合いはじめ、仮面夫婦を演じる為に結婚までしても
まだまだ彼女が分からない日がある。 毎日明るくって、俺にも優しくしてくれ尽くしてくれる良心的な妻。
人懐っこく笑い、俺の名前を呼びながら甘える仕草がいつしか本当に愛しくなってしまった。 けれど、時たま見せた事のない顔をして、切なそうに笑う彼女を知っている。
恐らく、俺じゃない誰かを想っている時の顔だ。 その顔を見る度に、日々心がざわめいていく。
「うん、美味しい。これ」
「そぉ~?この間お料理教室で習ったの。 いっぱい食べて~おかわりあるからね~
って、何か今日海鳳元気ない?仕事で何か嫌な事あった?」
不思議な事に俺が元気がなかったり、落ち込んでいると雪穂は一番に気が付いてくれる。
あんまり感情が動かないとか、何を考えているか分からないと言われるのに
彼女は何故か小さな変化にもすぐに気が付いてくれた。