ピアノを弾く指が止まり、海鳳はジッと私を見つめた。
首を傾げると、海鳳は突然私をその場で抱きかかえくるりと一周回す。
大きな窓からは暗い空に消えそうな新月が浮かんでいた。
「どうしたの?海鳳…」
「何でもない。そろそろ帰ろうっか」
「ええーっもっとピアノ聴きたかったのに…」
「今日はおしまい。またどこかで」
「ちぇっ…。ねぇ、じゃあうちもピアノ買おうっか?そしたら海鳳のピアノいつでも聴けるもん」
「駄目。マンションの住人から苦情きそう」
「けちっ。 じゃあまた実家に来たら聞かせてね?約束!」
小指をさしだすと、彼もそっと自分の小指を重ねた。
不安になると、未来の約束をしたくなる。 約束があればその日まで一緒に居られそうで
私達の関係なんて、夜空に映る消えそうな月のように儚いものだったのに――それでも一緒にいたくて、今を離せない。