ジェイソンは言葉を失い、しばらくの間、黙って傍に座っているほか何もできなかった。

だいぶ経ってから、ジョンは歯ぎしりしながら「さっき会った女の子だよ」と皮肉っぽく答えた。

ジョンを殴ったのは、彼をハニーと呼んだのと同じ子だということか?

ジェイソンはジョンと一緒に育ったので、二人はお互いよく知っていた。 だから以心伝心で、ジェイソンにとってジョンが本当に何を言おうとしているのか理解するのは難しいことではなかった。けれども、好奇心を抑えられず「一体、誰なんだろう?」と呟いた。

別にジョンに聞かせるつもりはなかったが、部屋が静まり返っていたため聞こえてしまった。

「ジェームズが送ってよこしたんだ」

「おまえが帰国した日にジェームズがよこしたサプライズのことかい?」

「そう」

「で、あの子と寝たのか?」

「ああ、そうだ」

「だから、おまえのことハニーって言ったのか」

「そういうこと」

「ついでに、おまえを殴ったのも彼女なんだな?」

「うーん……」
ジョンの口調が不意に変わり、返事を曖昧に引き伸ばしたのを聞くと、ジェイソンの心臓が高鳴る。そこで彼はジョンにおべっかを使い、神経質に笑いながら、愚かな質問をするという失敗を取り返そうとした。

ジョンの顔は死人のように青白く、額に浮かぶ青い静脈が息するたびに脈打っていた。 しかしジェイソンは、彼の怒りが自分に向けられているわけではないと気づくと、ほっと溜息をつくことができた。彼はジョンを激怒させる原因にだけはなりたくなかったので、ひとまず安堵することができたのだ。

しかし同時に、ジェームズが絶体絶命の苦境に陥っているのを心の底から気の毒に思った。

ジョンはジェームズに怒りの矛先を向け、きつく油を絞るつもりに違いない。

そのとき廊下から急でいる足音が聞こえたので、 ジョンはさっと顔を上げてドアをまっすぐ見つめた。彼の唇は荒々しく噛み締められ、拳はすでに握られている。