「アルバート、なんで…… なんでここにいるの?」 イザベラは唇をブルブル震わせながら涙を拭ったが、 断罪されるのを恐れて彼の方を見上げる勇気はなかった。 アルバートが、自分のやろうとしていたことを見抜いているのが怖かったのだ。

イザベラは、アルバートがニーナに対してどんなに親切かよく知っているのだが、 それこそがニーナを嫌悪するもう一つの理由だった。

アルバートは微笑んだままイザベラの項垂れた顔を見つめていたが、 その鋼のような眼差しはふと緩み、穏やかになる。

「ちょっと来いよ」

「何?」

イザベラは尋問されるのを予想していたが、彼は一向に気にしていないらしい。 イザベラが呆気にとられて涙目でアルバートに目をやると、 彼の方はすでに数メートル先に停まっているマセラティまで歩いていた。

イザベラは慌てて追いかける。 けれども、車内に座るとなおさら緊張が高まってしまった。

アルバートは普段、自分の車に女性を乗せようとしなかったが、 ニーナだけは一度ならず乗ったことがあった。

イザベラはついに彼の車に乗ることができたのだから、本来なら大喜びすべきところだが、 アルバートの顔は曇っており、彼女はそのことがとても気がかりだった。

この束の間の出来事でイザベラは動揺し、ついに「アルバート、何がしたいの?」と尋ねる。

アルバートは答えなかったが、通りの向こう側にある人気のない路地を眺めいていた。 その狭い路地の両側には大きな建物が聳え、 地面にはゴミが散乱しており、お世辞にも美しいとは言い難い様子だ。 こんな路地に入り込んでしまえば誰も気づくはずがない。

つまり、人を殺すには最適な場所だというわけだ。

しばらくするとアルバートはそちらを見るのをやめ、ゆっくりと言った。「俺だったら、そんな目立つ場所で人なんか殺さないぜ」

人を殺すですって? 彼は知っていたのだ!

「何?」 イザベラの顔は幽霊でも見たかのようにさっと青ざめた。

彼はナイフを見てしまっていたのだ!