イザベラはニーナを探しに大学に向かう前、居間にナイフを取りに行ってバッグに忍ばせていたのだ。

彼女は、ニーナの決断次第で自分の運命が二つの可能性のうちどちらかに決まるとわかっていた。 ニーナに助けてもらえるならシャン家は救われる余地があるが、拒否された場合シャン家は破産待った無しだ。

イザベラは、ニーナがもし手助けしてくれると言うなら、これ以上彼女を煩わさないことで感謝の意を表すつもりだったが、 拒否された場合は彼女を殺してしまうつもりだった。

けれども、それは全く不確実な話であり、 唯一確実なのはイザベラが何としても雪辱を果たさなければならないということだった。 ニーナにいつも軽蔑され、ほとんどあらゆる側面で打ち負かされてしまった彼女は 屈辱を晴らす必要性を感じていたのだ。

そして、そのための唯一の方法はニーナを殺すことだ。 これまでニーナにされてきた仕打ちを考えるなら、これ以上生かしておくわけにはいかないからだ。

イザベラはあたり一帯を見定め、その辺りは人通りがまばらで、 歩道と道路の境目に高い木々が並んでいるので隠れることができるのを確認していた。

そして、手にナイフを握りしめたままニーナに向かって一歩ずつ進んでいったが、 誰かが通り過ぎるたびにナイフを背後に隠し、並木に背を向けて待つ必要があった。

イザベラは急ぎ足で進みながらニーナにどんどん接近していく。

「ニーナ、地獄に落ちろ!」 イザベラは内心そう叫んでいた。

「ニーナ!」 不意にアルバートが現れ、 手を振ってニーナの方に歩いていく。

イザベラはショックだった。 そして、ナイフを背後に隠してこっそりバッグに放り込もうとしながら、 誰にも気づかれないことを祈りながら項垂れた。

けれども、アルバートにナイフを持っているところを見られてしまったようだ。