ノースヤードは丘の上に位置しているので、街からは遠いのだ。

ニーナは車に乗り込むと、途中で放り出されないようにずっと警戒していた。 この辺りにはカーディーラーなどないので自分の車を買う訳にはいかない。 他方、ジョンに仕返しされるという恐れも少なからずあり、 というのも、彼にしてみればニーナを山に連れて行って不埒な目に遭わせるなど朝飯前に違いないからだ。

そんなわけで、ニーナは道路の先を注意深く見守りながら、あたりの様子を伺っていた。 そして時々、ジョンの様子を伺い、彼の気分を推測しようとする。 自分の身は自分で守るために慎重かつ用心深く行動しなくてはならないのだ。

「ジョンおじさんって呼んでもいいかしら?」 ニーナは慇懃に会話しようとした。 そして、他人と交渉するときまずすべきなのは、正しい呼び方を用いることだ。

実際のところ、ニーナはまだジョンを何と呼んだら良いかわかっていなかった。 好きに呼んで良いというなら、単に名前で呼んだかもしれない。

しかし、彼女がジョンと知り合って以来、誰もが敬称で彼を呼んでおり、 名前で呼ばれるところなど見たことがないのだ。

ジョンは「いや、駄目だ」と答え、ハンドルをしっかりと握り締める。

甥の妻に呼ばれているような気がするので、ニーナにジョンおじさんと言われるのは嫌なのだ。

結局のところ、ニーナはジョンのものであり、ジェームズのものでないことは誰の目にも明らかだった。

しかし、ジェームズに対する憎しみは再びたちどころに燃え上がる。

一方、ニーナは周囲の様子を眺めていたが、 両側に生えた木々が窓越しに眩く輝き、彼女の心はもう高鳴っていた。 そのとき車のスピードが明らかに上がったのを感じたので、彼女は怖くなってシートベルトを手で掴むと、 徐々にスピードが緩んで元に戻る。