一方、ジョンはイライラして再び眉をひそめ、お粥をニーナにやり続ける。

どうしてヘレンはそういう決定的な場面に限って登場するのだろう? 彼は痛がっている振りをして、ニーナに世話を焼かせようと企んでいたところだったのだ。

ところが今や、野次馬が見張っている。 痛がっている振りなどできるものか! ジョンはこの期に及んでも尊厳を保つことが何より大切なのだ。

しかし、ヘレンが目の上のたんこぶになって二人の邪魔をするとは!

ニーナはスプーンをいきなりジョンの手から奪い取ると残りは一人で全部食べてしまい、 眉をひそめたまま大きな手でお腹をさすっている男には何も残さなかった。

こいつの心は石でできているのだろうか? ジョンはそう思った。

彼はとても痛がっている振りをしたのだがニーナは彼の方を見ないばかりか、大丈夫かどうか尋ねる事もせず、 それどころか、テーブルの上にあった朝食を全部一人で平らげてしまったのだ。

ニーナはジョンの哀れっぽい瞳をちらりと一瞥したが、 どうやら彼女の方から気に掛けてくれるのを待っているようだ。 彼自身は気づいていないようだが、まるで甘やかされ子供じゃないか。

ニーナはそう思っただけで笑わずにはいられなかったが、しばらくすると真面目な顔に戻る。

そして、「落ち着け、私」と自分に言い聞かせて感情の起伏をなんとか抑えようとした。

「まだ授業があるから、もう行かなくちゃ」 ニーナは立ち上がって出かけようとする。 もう一度ジョンの方に目をやったら、彼に厳しく接するという決意がぐらつくのではないか不安だったのだ。

そもそも、ジョンの方がむしろ冷酷さを体現していたのではなかったか? それなのに、彼はどうしていきなり変わってしまったのだろう?