ハニー、俺の隣に戻っておいで

そして、自分がプロレスのように投げ飛ばされかけていると思い、 ニーナから手を引っ込めようとしたとき、彼女が足を動かそうとしていることに鋭く気づいた。 しかし、躱そうと思ったと同時に悪魔じみた考えが閃き、彼女の攻撃をわざと躱し損ねた振りをした。

ニーナはジョンのお腹を激しく蹴り、椅子から五十センチばかり吹っ飛ばしたが、 自分が無意識に手加減していることにはどうやら気づいていないようだ。

「痛っ……」 ジョンは大きな手でお腹を庇い、唇を尖らせて不平を言ったが、 怒っているというよりは途方に暮れているようだった。

ニーナはそれ見たことかと自慢げに顎を上げ、首を動かしてジョンに立ち向かうべく横柄に彼の方を一瞥したが、 顔が赤らむのはどうにも抑えられない。

そこで、ここはどんと構えて棗のお粥を食べることにしたが、 それを見たジョンは怒りと可笑しさを一度に感じていた。

彼が寛大な態度を示すほど、ニーナは我儘で恥知らずになるのだ。

けれども、このくらいの癇癪なら我慢したって構わない。

ジョンがそんなことを考えていると不意に台所で音がするのが聞こえたので、 彼は急いで椅子を元の場所に戻しリラックスした様子で座ると、まるで何事もなかったかのように振る舞った。

「ほら、いい子にしろよ。 全部飲むんだぞ」 そして、慎重に棗のお粥をスプーンで掬ってニーナの口に押し込んだ。

これには流石のニーナも呆気にとられ、 一体どうしちゃったのよ、と思った。

事の成り行きを確かめようと台所から頭を突き出していたヘレンは、ほっと溜息を吐くと、 「シー ご夫妻は とても愛し合っているのね」と言った。

二人の愛らしいやり取りを眺めると、彼女は台所に戻り仕事を続けた。