激怒のあまり、げんこつを握った彼の手の甲には青い静脈が透けて見える。 普段は物腰の穏やかな彼も、今度ばかりは怒り狂った男の様相を呈していた。

「心配しないでください。 あちらに座ったって何の問題もありません。 大丈夫ですから」 ニーナは手を差し伸べて彼を宥め、静脈が浮き出した手の甲に触れると、 さっと立ち上がって歩いて行った。

ジュ氏の隣に座っていた人々は皆、 彼女のためにさっと場所を空けた。 ジュ氏は 空いている椅子の背もたれに片手を置く。 そしてニーナが腰を下ろせば、彼女を腕に抱くことになるのだ。

こんな美人と一緒に飲めるなら後悔はなかろう。

「おい、待て！」

それまで気配を消していたジョンが突然、声を荒げる。 彼が止めるのを聞くと人々は即座に口を噤み、黙りこくる。

すでにジュ氏の側に立っていたニーナは 身動きを止め、混乱気味に「何よ、いきなり」と口走った。

するとジョンは「俺はこのプロジェクトに30億投資する」と、皆が反応する前にそう宣言した。

これは予想をはるかに超えた事態だった。

列席者たちは皆驚いてお互いを見つめあい、耳を疑った。

けれども素晴らしい展開ではないか！

この二人の男はどちらも、美人のためならいくらつぎ込んでも構わないのだろう。

一人はエンターテインメント業界の重鎮、もう一人は市内屈指の名家シー家の跡取りである。 さっきはジュ氏におべっかを使っていた人々も、 今度は貪欲に別の算段を立て始めていた。

ウィルソンは信じられないといった様子で思わず尋ねる。「シーさん 本気でいらっしゃいますか？ 本当に30億投資されるおつもりなんですか？」