「小賢しいのは良くないぜ」
ジョンは物知り顔でそう言うと、この小娘にやり込められないように別の方法を考え始めた。

こんな面白い女の子は何としても側に置いておきたい。

「じゃあ別の選択肢をやろう。 俺を尾行せずに三回会うことができたら、ビデオをすっかり消してやってもいいぞ」

レキシンポート市は大きい。しかし彼女は賢かった。 二人が三回出会うのはたいして難しいことではなさそうだし、会えるかどうかなど実際のところどうでもいいのだ。 結局、ビデオはニーナを脅すため手段でしかなかった。

ジョンにとっては、ニーナともう二度と会えない可能性の方をもっと心配していた。 ならば、また出会ったら面白いわけだ。

「本当?」
ニーナは信じて良いかどうかためらった。

「もちろん」
ニーナが罠に嵌るのを見て、ジョンは皮肉っぽく頷いた。

ニーナはひとしきり考えていた。 あの男は、彼に出くわすために積極的に行動してはいけないとは言わなかったし、それを妨げるような制約もない。 ただ三回出会ったらビデオを削除するなら、 負けるわけがない。

すると、ニーナはうぬぼれて顔を上げると、「わかった」と同意した。

そして手を振って、くるりと向きを変え足早に立ち去った。

彼女は騙されたとは思いもよらず、きびきびと歩き続ける。

できる限り早く離婚することしか頭になかったのだ。

すぐに離婚の申し立てを済ませて、ビデオを削除しよう。あの男にも二度と会うことはないだろう。そう思うと心が軽くなった。

角を曲がると、待ちきれずに携帯電話の電源を入れ、 しばらく検索して一度も掛けたことのない電話番号を見つけ出した。

その番号が奇妙な夫のプライベートの連絡先らしい。 ニーナは必要とあれば彼に助けを求めることができるとおじさんから言われたから。

そして今、実際にこの変な夫と連絡を取り、助けを求める必要があるのだ。