「俺をひっぱたいておいて、そのまま帰れると思うなよ? 俺をなんだと思っているんだ? 選択肢を二つやろう。 俺がおまえに飽きて放り出すまで一緒にいるか。然もなくば、昨夜の出来事を写したビデオがリークされるのを待つか」
彼はいけしゃあしゃあと脅しをかけると、凍りついたニーナの顔を堪能していた。

「嘘でしょ、ビデオなんか撮ったの?」
ニーナは歯ぎしりしてキッと振り返り、目の前の男を殺してしまえればいいのにと思った。

彼女は、彼がどんな子供時代を送ったらこんなひねくれた大人になるのかと呆れ返った。

「嘘じゃないぜ」
ジョンは平気で嘘をついた。実ははったりをかけてたわごとを言っているだけだったのだ。

彼は嘘をつくことをよしとせず、軽蔑すらしていたが、相手が小娘なら大したことではない。

怒り狂ったニーナの歯はカチカチと鳴り、憎しみに満ちた目は刺すような視線を送っていた。

ビデオが広まってしまったら評判を失うだけでは済まない。二千万ドルも失うのだ。

その男がよこした選択肢はどちらも受け入れ難かった。

パニックでニーナの美しい目はきらめいた。

敗北の傷跡が刻まれた彼女の青白い顔とおろおろした瞳を見ると、勝利の喜びがジョンの目を輝かせた。

「まあ、じっくり考えるんだな」
彼はわざと台詞を引きのばした。 ジョンの柔らかな声はチェロのように低く魅力的で、ニーナに突き刺さった。

ジョンに反撃されたニーナは、別の弱みに気づき挑発的に言い返す。
「ビデオをリークしたらあんたのイメージも台無しよ? 我慢できるかしら?」

ヘンリーは心配そうに、 ため息をつく。 ジョンは完璧なイメージを最も気にかけており、 ニーナは彼のアキレス腱を的確に突いたのだ。

もはやジョンの策は、 尽きかけているに違いない。