「シー社長、 L大学はこっちじゃありませんよ」 ヘンリーは、ルーさんはどこに向かっているのだろうと疑問に感じていたのだ。

ジョンは周りを見回してニーナがどこに行くつもりか考えていたが、 近くに大きなショッピングモールがあることを思い出した。

きっと買い物に行くんだろう、と気がつくとジョンはホッとして 優しげな笑顔を唇に浮かべ、遠くからニーナの美しい姿をそっと見つめた。

しかし、ジョンの笑顔はすぐに固まり始め、体は座席にビシッと張り付いてしまった。 ニーナが自動車ディーラーに足を踏み入れるのを見たのだ。

ヘンリーは車を停めると、信じられない様子で「自分の車を買うつもりなんでしょうか?」と言った。

その時すでに、ニーナはすでに視界から消えて店内に入ってしまっていたが、 ジョンは冷酷な深みのある声でいきなり「馬鹿なことはやめろ!」と叫んだ。

一方、ニーナは目の前の自動車ディーラーを見ながら内心ほくそ笑んでいた。 彼女は人目につくのを恐れてそれまでは車を買わずにいたのだ。

けれども、ジョンがこんな嫌がらせをするとあっては自分の車を買うしかないではないか。

ニーナは店に入るとすぐSUVコーナーに素早く視線を走らせたが、結局、堂々たる黒のランドローバーに釘付けになった。

そして、車の周りを歩き回って点検すると「今すぐこれください。乗って帰ります」と言いながら満足げに頷いた。

ニーナの身なりが至って普通だったので、店員はきっと虚勢を張っているだけだろうと考えて相手にせず、 その場で乗って帰ると聞いたときには馬鹿にしたように笑う者さえあった。

しかし、ニーナは財布からブラックカードを平然と取り出し、落ち着いた声で「今すぐ支払うわ」と言う。