そしてもちろん、タクシー運転手たちは金持ちのやる事に口など突っ込みたくないので、 みんなできる限り避けていた。

しかも、ニーナは他人と容易に区別できる美しい顔をしているせいで、 手を振って合図しているのが彼女であることは遠くからでも分かってしまうわけである。 彼女に手を貸して後で酷い目に遭いたくないので、みんな停まらずに行ってしまった。

しかしそのうちに、彼女の窮地を哀れに思ってくれる運転手が現れ、 ニーナにこそっと「お嬢ちゃん、誰か怒らせちゃったのかい?」と聞いた。

その言葉を聞くとニーナはようやく、どうしてタクシーを一台も捕まえられなかったのか理解し、 鼻を鳴らして立ち上がると遠くからその車を見つめた。 最近彼女と一悶着あったのはイザベラとジョンの二人だけだったので、仕組んだのはこの二人のうちのどちらかで間違いない。

ニーナがどちらが犯人か見極めようとしていたとき鋭いクラクションの音が聞こえ、 振り返るとベントレーがあまり遠くないところに駐車しているのが見える。 そして、助手席にはジョンが座っているのだ。

ジョンは踏ん反り返って傲慢にこちらを眺め、 薄い唇には微かな嘲笑を浮かべている。

彼は窓の外に腕を伸ばしてだらりとぶら下げ、

手を振って来るように合図した。

しかし、ニーナは無視を決め込んで平然と立ち去ってしまった。

それを見て、ジョンはキュッと眉を上げる。 この際ニーナどこまで頑固なのか試してやりたいが、 ジョンと一緒に行く替わりに本当に大学まで歩くつもりなのだろうか?

とはいえ、L大学まではそれほど遠いわけでもない。

「追いかけろ」とジョンが命令する。

「はい、社長」

歩くニーナを追いかけるわけで車は亀のようにノロノロ進みながら、 最初はジョンの言う通りにニーナを追いかけていたが、道路の分岐点で向きを変えた。