ニーナはジョンが何をしたのか知るすべもなく、道端に立って辛抱強く通り過ぎる車を眺めていた。 そもそもタクシーはめったにやってこない上、ようやくやってきたタクシーには空車の表示がない。

ヘンリーは手際の良い部下で、ジョンの指示をその通りに実行したので、 タクシー会社はあっという間にみんなジョンに買収されてしまっていたのだ。 そして市内に登録されているタクシー運転手は皆、勤務中であろうと休憩中であろうと、ニーナの写真が添付された同じメッセージを例外なく受け取っていた。

一方、ニーナは遠くから空車のタクシーを見つけたので窓をノックしようと歩いて近づくと、 運転手はちょうど電話を仕舞ったところで、窓を開けてくれた。

「すみません、L大学に行きたいんですが、 連れて行ってもらえますか?」 しかし、ニーナがドアを開けて乗り込もうとすると、ドアがロックされていて開かないではないか。

タクシーの運転手はニーナが写真の人物だということがわかると気が変わり、「ごめんなさい」と申し訳なさそうに微笑み、 「先約が入ってしまって」と言った。

「わかりました。ありがとう」 ニーナはそう答えると、特に気にするでもなく道端に戻ってまた待った。

そして、空車のタクシーが何台か通りかかったのでニーナは拾おうと試みたが、ことごとく拒否されてしまった。 ニーナを拒否タクシーにはそれぞれ事情があったが、なかには共通の馬鹿げた理由で断った運転手たちもいた。

レキシントン市は国家経済の中心として高度に開発され、工業化されており、 様々な種類の人々が住む清濁併せ呑む街なのだが、 タクシー運転手たちは皆利口だったので、ニーナが街の大物を怒らせたに違いないとちゃんと分かっていたのだ。