ニーナは驚きのあまり絶句して、視線を上げることすらできずに黙って座っているばかりだった。 そして、目を大きく見開いたまま唇をしっかりと閉じ、口いっぱいに頬張ったお粥をゴクリと飲み込む。

「はあ?」 ジョンはニーナの方を意味ありげに一瞥しながらそう言った。

けれども、それ以上は何も言わない。

「おじさん、あなたってお金持ちだし、かっこいいし、力もあるじゃない。 ニニが好きなんだったら、そこら中にいる頭のおかしい奴らから彼女を全力で守ってあげなくちゃだめよ」

しかしジョンはと言うと、ミシェルに完全に同意したわけではなかった。 ニーナを守ってやるだって? ニーナから守ってやるの間違いだろ。そう考えていたのだ。

まるでお節介な母親のように、ミシェルは「おじさん、結婚しているの?」と詮索する。

ミシェルはちょっと気が早すぎるのだ。

けれど、ジョンが答える前にジェームズが割り込んでくる。

「馬鹿だなぁ! ジョンおじさんが誰かと結婚したかったら、とっくの昔にそうしているはずだろう。 それに、俺が知らないはずがないし。 噂にだってなるはずだろ。 ミシェル、そんな話聞いたことあるかよ?」

「確かにそうね」 ミシェルが頷く。 ジョンが結婚していないならニーナにもチャンスがあると言うことだ。 ミシェルの瞳が輝き、ジョンに言う。「おじさん、結婚していないのなら早くニニと結婚したほうがいいですよ。 彼女はやっぱり助けてくれる人が必要なんだもの」

その時ジョンは自分の極秘の結婚について真剣に考えていた。 ミシェルの提案を現実的に検討するためにも、なるべく早く離婚するべきなのかもしれないという訳だ。

しかし、ニーナは彼に考える機会を与えなかった。

「ごめんね、みんな。 私、結婚しているのよ」 ニーナは箸を置くと、唇に微笑を浮かべながら背筋を伸ばして座った。

このとき初めて、自分の結婚が意義のあるもののように思えたのだ。