口調の険しさに気がついたのか、ニーナは「私の夫はその辺の男とはわけが違うのよ」と目を細めて釘を刺した。

家族がスクエア通りの屋敷に住んでいるのだから、その辺の男とはわけが違うに決まっている。しかもそのブロックにある住宅はその一件だけなのだ。 とんでもない家族の出身に違いない。

ニーナがそう言ったので、ジョンはヘンリーが彼女の身辺調査をしたときに集めてきた情報のことを、重わず思い出した。 わずか半ページほどの長さで、役に立つことは何も書かれていなかった。

なにはともあれ、ジョンは海外から帰国したばかりなのだ。出来るだけトラブルは避けたいところだ。

「今すぐ私を降ろして」とニーナは要求した。

男が不安そうにしているのを見て、ニーナはほっと溜息を吐いた。 彼女はこの男がいい人ではないと感じていた。

さっさと立ち去るのが一番だろう。 遠ければ遠いほど良い。

目下、ニーナは夫以外の男に構っている暇はなかった。 何よりもまず、一度も会ったことのない夫と手を切るのが先だ。

しかし急に不安に襲われる。 この男も彼女の美しい顔を求めて追いかけてくるだろうか? 彼女が両親の良い遺伝子をすべて受け継いだことを後悔したのは初めてではなかった。

そのせいで、いろいろな問題を抱えてきたのだ。

「まずは私を車から降ろして、いいでしょう?」
ニーナはなだめすかすような笑顔で再び促した。