しかも、手前味噌ではあるが、彼女こそ一番若い弟子である。 彼女は他の弟子たちに比べると学業が苦手だとはいうものの、熱心に勉強する一方、必死に訓練もこなしていた。

だからグー教授の授業に欠席する訳にはいかない。 実際、ニーナは指定された教室に一番乗りでやって来た。

そして最前列に着席し、 犯罪心理学の本を取り出したとき、後ろで重々しい足音がするのが聞こえた。

「ニーナ」 グー教授は白髪で身長が低いとはいえ雄牛のようにがっしりしており、圧倒的な存在感を放っていた。彼は丸顔に髭を生やし、ニーナに優しく微笑みかける。

それはまるで、孫娘が可愛いくて仕方ない祖父の視線のようだ。

その声を聞くとニーナは体を捻り、彼に敬意の眼差しを向けた。 彼女もまるで家族に会ったかのように嬉しかったので、昨日の不幸は心の奥に消えていく。

「グー先生、今日はどうしてこんなに早くいらっしゃったんですか?」 普段グー教授は授業開始のわずか二分前にやってくるのだ。

けれども、今日はまだ十分もあるではないか。

「そんな所に突っ立ていないで、 お座り。ちょっとお話があるんでね」グー教授は親しげに微笑んでニーナの隣に座った。

「わかりました。 先生、お話ってなんでしょう?」ニーナも腰を下ろし、グー教授の方を真剣な眼差しで見つめながら全神経を集中させる。

彼女が取り組んでいた事件について何か重大な話があるに違いない。

「数日前の自殺事件、あれまだ覚えているかい? あなたの分析をメールで読んだけど、驚いたね」彼はそう言って、ニーナの犯罪分析にお墨付きを与えた。実際、二つの自殺事件を比較すると当然とは言い難い不審な類似点がたくさんあったのだ。