けれども、チャン家がニーナを尾行して誘拐するために人をやったと聞くと、ジョンはまるで自分が被害にあったかのような気がして、 冷酷な目に獰猛な無情さを浮かべていた。

以前ニーナが力いっぱい引っ叩いてきたとき、ジョンは積極的に反撃することなど頭になかった。

それなのに、チャン家はどうして彼女を誘拐して危害を加えようなどと大それたことを考えたのだろう?

彼らはジョンが死んだと思っていたのだろうか?

しばらく黙り込んだ後、ジョンはたった一言 「そうか」と言うことしかできなかった。

そして、ヘンリーに車を停めるように言うといきなりニーナを道路脇に放り出したが、 それはとんでもない場所だった。

彼女が事態を理解する間も無く、外の冷たい風が肌を刺す。 車はすでに姿を消しており、彼女は一人ぼっちだった。

ニーナはジョンにもっと早く停めるように頼んでいたのに、彼は断固拒否した挙句、 今になって誰もいない場所に置き去りにしたのだ。

下劣なからかいにかけてはこの男の右に出るものはない。

しかし、何れにせよ彼のことでくよくよ悩む必要はもうない。 今後、二度と会うことはないのだから。

ニーナは無事アパートに着くのにかなり時間がかかり、 タクシーに何万円も払う羽目になってしまった。そして、家に着く頃にはもう深夜一時で、疲れ切った彼女は、枕に顔を埋めるやすぐに眠りに落ちてしまった。

ニーナが目覚めたとき日はすでに昇っていた。

その日は午前中、犯罪心理学の専門講座があるはずだった。 普段はチン教授がこのクラスで教鞭を執っているのだが、2か月ごとに犯罪心理学の権威、グー教授がやってきて講義をすることになっていた。

グー教授は犯罪心理学の著名なプロファイラーで、 彼には全国各地の刑事捜査チームに協力する、多くの意欲的で有能な弟子たちがいるのだ。そして、ニーナにとってもグー教授は尊敬すべき指導教官だった。