少し前までニーナはジョンについて傲慢なナルシストだという印象しかなく、大いに不愉快な目に遭わされていたのだが、 今、彼は本当にナルシストだということが露見したわけだ。しかも、本人はその自覚がないのだ。けれども、さっき彼が訳もわからず言ったことはちょっと可愛い過ぎだった。

もしジョンに月の物があるなんてことになったら、ニーナは今度こそ彼を無慈悲に笑い者にしてやるに違いない。

「いや、シー社長、 ルーさんが言っているのは……」ヘンリーは完全に言葉を失っていた。そんなことも知らないとは、ジョンは一体どんな人間なのやら。彼はもはや開いた口が塞がらず、ジョンにどうやって説明したものか皆目見当がつかなかった。

「わかった、御託を並べるのはやめだ」 ジョンはそう言うと、ニーナのいたずらっぽい笑顔に目を細め「病院に行け」と命令した。

「そんな必要ないって言っているじゃない。 今すぐ降ろしてよね」とニーナは言ったが、そのとき彼女は普段の顔つきに戻っていた。車内で笑い者になるのは大したことではないが、病院に行ってしまったら笑い事では済まなくなってしまうだろうし、ジョンが自分の失態を知るに至れば死ぬほど恥をかくに違いない。

そうなれば、彼女に全責任を押し付けるのは目に見えている。

「行けって言っているだろ」ジョンは病院に行くことにまだ拘っていた。

けれどもその日ニーナは親切気を起こし、一度くらい彼の面子を立ててやることにしたものの、 ジョンがあんなに強情を張っているとなると率直に真実を言うしかなさそうだ。

「妊娠なんかしてないわ」とニーナは可愛らしく微笑みながら、潤んだ目で彼に優しく説明する。