「女? 誰の話をしているんですか?」
混乱したのはジョンではなく、むしろ周囲の人たちだった。

「ソンさん、 冗談ですよね?」
レキシントン市の住民は皆、ジョンが女性にまったく興味がないことを知っていた。

だから、その場に居合わせた人たちはドキドキしながらジョンを見つめて、本当かどうか見極めようとした。

ジョンが片手をズボンのポケットに突っ込んだままビリヤードルームを一瞥すると、見慣れた姿が目に入る。

ニーナの隣に立っていたのは甥のジェームズで、 楽しそうにおしゃべりしながらキューを握っていた。

ニーナの方は彼のおしゃべりをじっくり聞いているようだ。

二人を目にすると、ジョンの瞳の奥に不快感がちらつく。

(自分と会うときはいつも遠慮なく敵意をむき出しにするのに、 ジェームズと一緒にいるときは穏やかで優しそうな面を見せるとは一体どういうわけだ?)

一緒にやってきた男の一人がジョンの態度の変化に気づき、意味ありげに微笑むと「せっかくビリヤードルームにいるんですから、ひと試合しましょう」と提案する。

すると「そうですね、やりましょう」と他の誰かが賛成の返事をした。

「ソンさんによると、 シーさんの恋人はビリヤードルームにいるそうですね。今回は彼女のお目にかかれるんじゃないですか?」

「まったく、シーさんの 心を掴んだなんて、運のいい人ですよ」

ジョンはニーナの美しく気品のある姿を愛情深く見つめ、満足そうに笑った。 彼女は実際とても幸運で、あまりにも恵まれているのだ。

しかし、彼女自身はそのことに気づいていなかった。

「いや、部屋に入っちゃだめだ。 おまえらは俺のお嬢ちゃんを怖がらせるだろ」
ジョンは自分の口調がどれほど穏やかになっているか気づいていなかった。