ジョンは質問に答える代わりに、「運転に集中しろ」とぴしゃりと言った。

「わかりました」
ヘンリーは無視されたが、眉を少し上げただけだった。

車は角を曲がるとスクエア通りに入った。

ヘンリーはウインカーを出してハンドルを回し、 万が一の事故を避けるため曲がる前にクラクションを鳴らした。

ところが、車が道に入るといきなり人影が現れた。

ヘンリーは驚いてすぐにクラクションを鳴らし、急ブレーキを踏む。

けたたましいクラクションを聞いて、独身に戻った喜びに浸っていたニーナがぱっと頭を上げた。

マイバッハが向かってくるのを見て、ニーナは一瞬我を失った。

でも、足は鉛のように重く、動かすことができない。

「停まって、 車、停まって!」
彼女の心臓はバクバク鳴り、目は大きく見開かれていたが、足を動かすことだけはできなかった。

ギリギリのところでヘンリーはなんとか車を止めた。

アスファルトに焼けたような匂いが立ち込める。

車とニーナの間にはほんの少しの隙間しかなかった。 車が停まるのがほんの一瞬でも遅ければ、彼女は轢かれて今ごろ天国に召されていただろう。

あまりの出来事にニーナはバランスを失って地面に倒れ込み、手をついた拍子に皮がむけてしまった。

彼女はまだショックを受けてるようだ。