「まあ、そうだな」
ジョンは上の空でそう答えるともどかしそうに手を挙げ、もう帰ってくれと言った。

グレンはオフィスを出るや否や、友好的とは言えない態度でこちらを見つめるジェームズに出くわした。 グレンは少々驚いたが落ち着きを保ち、微笑んで彼の機嫌を取り始める。
「はじめまして、ジェームズ・シーさん」

「こんにちは」
ジェームズは機械的に答えたが、目には嫌悪がはっきり見て取れる。 案の定、チャン一族は家族全員同じ道徳に従っていた。

「L大学で勉強されているそうですが、私の娘イザベラも同じ大学に通っているんですよ。 お会いしたことはありますか?」
グレンは、イザベラがジェームズと結婚できれば一族は大いに繁栄し、大金持ちになれるだろうと考えていたのだ。

ジェームズはかすかな皮肉を込めた笑い声で言った。
「はい、あります。 あなたの娘さんには今日のお昼にあったばかりです。とても印象的だったので、忘れられません」

嘘ではない。なにしろ、彼女が自分のことを馬鹿にして舐めてかかったことは忘れられるはずもないのだから。

「それは、運命だね」
グレンはジェームズの言葉を明らかに誤解し、娘がとても魅力的だから忘れられないのだろうと思った。

一方、ジェームズはもう一言も言わずにドアを押してオフィスに入る。

ジョンはタバコを手に、ドアに背を向けて椅子にもたれかかっていた。 ジェームズの足音が聞こえると、「彼女のことが忘れられないだって?」とゆっくり尋ねた。

ジョンはいつも、ジェームズの女性の好みはどこかおかしいと思っていたが、まさかこんなにセンスがないとは思ってもみなかった。