『え?本名。何?』
裕太君はバスローブを着て、ソファに置いてあるかばんの方に行く。
私は、ベッドで起き上がり、それを見ている。
裕太君は、眼鏡をし、髪を整えた。バスローブを脱ぎ、白衣を着た。
見たことある人だった。というより、今日、朝、帰りにあいさつした人だった。
「佐々木先生?」
「そうだよ。佐々木裕太。全然気づいてなかったの?」
「ごめんなさい。全く。ちょっと雰囲気違うから。」
「いつ気づくかな?って思ってたのに」
と、笑った。
しかし、なんで、佐々木先生は知ってて、毎回会いに来てくれたんだろう?
「橘さん、なんでこんな仕事してるの?」
直球で質問された。でも、借金のことは話したくない。
「暇だし、誰かと会ってると楽しいし。お金稼げるから丁度いいかなって思って。」
「そうなんだ。」
一瞬無言になる。
嫌われたよね。仕方ない。
佐々木先生が話を始めた。
「実は、橘さんだって、初めから知ってた。
6カ月前、新町の飲み屋で軽く飲んだ帰り、橘さんを見かけた。
年上の男の人と歩いていて、彼氏なんかなって思った。
でも、何日か後に、また、違う男の人と歩いているのを見た。
彼氏が多いんかと思った。
でも、何回か見たことがあって。スマホを2個持ちしてるのも気になってた。
新町のマチカフェで、コーヒーを飲んでたら、たまたま、橘さんっぽい人が入っ てきて、男の人と話しているのを聞いた。
『Dream girlのつばさちゃん?』
『そうです。今日はよろしくお願いします。』
と話してた。
検索してみたら、レンタル彼女だった。会員になってそこの女の人を見てたら
橘さんが乗ってた。化粧変えてるから半身半疑だった。
だから、コメントしてみた。真実を確かめたくて。」
「そうだったんですね。
全然知らなかった。気づきもしなかった。
でも、なんで。ほっといてくれても良かったのに。」
「ほっとけるわけないよ。
ずっと好きだったんだもん。
研修で、病棟に来て間もないころ、橘さんはいつも患者さんもスタッフにも笑顔だなって思ってた。俺が調子悪い中、仕事してたとき、声をかけてくれた。
『先生、大丈夫ですか?横になったほうが・・・。先生頑張りすぎないでくださいね。』って。」
私は覚えていなかった。
「気遣いが嬉しくて。その後、体調が回復したら、
『今日は、大丈夫そうですね。よかったです。』と笑ってくれた。
いいなあって思った。それから、ずっと好きだった。
でも、俺は言えなかった。
で、橘さんを見かけて、レンタル彼女で、本人だったらいいなって思って、賭けでコメントしてみた。本人だって、すぐわかって嬉しくて、でも、他の男とも会ってるのは嫌で、シフト確認しながら、ブログを確認しながら一早くコメントした。」
「そうだったんですね。・・・」
何も言えない。
「これからも、会って欲しい。レンタル彼女じゃなくて、本当の彼女として。」
告白さえた。
でも、私は借金を返さなければいけない。
それに、私は汚れてる。こんな真っ直ぐな人に合わない。
「ごめんさい。気持ちはうれしいですけど。
この仕事辞める気ないし、彼氏も作りません。ごめんさない。」
「じゃあ、これからも、ずっと、ブログにコメント入れる。
そしたら会ってくれるでしょ?」
何も言えなかった。
「ごめんさない。」
服を着て、部屋を出た。
泣いた。ただ、ただ泣いた。



