「苦いなぁ、たばこって」

吸ってもないのによく言うよって言葉は飲み込んで、わざと突き放すような言葉をお見舞いしてやった。めんどくさい。たばこ吸ってる悪そーな奴だったら誰でもいいんだろ。勘弁してくれ。女なら足りてる。
そんなことを考えながら彼女をみる。
ほっぺたをぷくーって効果音が聞こえそうなくらい膨らませて、

「つまんなぁー」

と一言。
そこらへんに転がってるようなマゾ女とやらに片付けるには、少しばかり勿体無いような気がして。
そうと考えを巡らせていると、ふわふわと彷徨う白いそれを捕まえてはにかんだ。
調子狂わせんな。

『もー帰れ、お前』

普段よりワントーン低い声に怯えたと安堵するも束の間、180度違う提案を投げかけられた。
これが駆け引きならば相当手慣れてんな。

「じゃあ、名前教えてよ、そしたら帰る」

名前を聞いたところで需要などないだろうに、馬鹿なやつ。
少しの沈黙。は、ここで黙るんだ。
おもしれぇー女。
沈黙のせいか苦さのせいかむせる彼女などお構いなしにまたふかす。

「わたしね、20なの。おにーさんが思ってるほどお子様じゃないんだよ」

だなんて言うから、20は俺からしたら立派なガキだよって振り向きざまに見えた彼女に息を呑む。
一度たりとも俺の名前を呼ばなかったのは計算か否か。

あぁ、彼女、本当に面白いこと。
俺としたことが大失態。
ハタチのガキのその笑顔に、妖艶な色気をみてしまったのだから。