朝食
ジャックに起こされたセシーリアは2人で食堂へと向かう。
食堂のドアを開けると香ばしい匂いが漂ってきた。
フワフワのクロワッサン、キラキラ輝くコーンスープ、新鮮な野菜たっぷりのサラダ。
これらはこの屋敷の使用人たちが用意したものであった。
「わー今日も美味しそう」
「フフ、そうですねセシーリア」
ジャックはさりげなくセシーリアの椅子を引く。
何事も無かったかのようにセシーリアはそれに座る。
「それでは頂くとしますか」
と二人で丁寧に手を合わせて食事を始める。
「それにしても今日もセシーリアは中々起きてくれませんでしたね」
「うう…それは」
「いいんですよ。セシーリアをああやって起こすのが何よりも楽しみなんですから」
「そ、その事はもう忘れて!」
セシーリアは顔をサラダに入っているトマトのように真っ赤にしながら、サラダを頬張る。
と、「あれ…」セシーリアの動きがピタリと止まる。
「これは…」
セシーリアがフォークに刺して掲げたのは小さなブロッコリーだった。
「おやおや、セシーリアの苦手なブロッコリーが」
「ちょっと!なんでこんなものが入っているのよ!」
セシーリアは隣室に控えているメイドを呼びつける勢いで言う。
「セシーリア、そんな言い方はよくありませんよ」
「ごめんなさい、でも…」
「せっかくセシーリアが食べやすいように小さく切ってあるんですし」
「そうね…」とセシーリアはフォークからブロッコリーを外し、スープを飲み始める。
ーそしてブロッコリー以外は完食した。
「あーどうしよう…」セシーリアは再びブロッコリーをフォークに刺すとにらめっこを始めた。
「好き嫌いはよくありませんよ」ジャックは食後のコーヒーを飲むと告げる。
「わかっているわ。ただどうしてもブロッコリーだけは食べれないのよ」
「うーん、どうしましょうか」
ジャックは再びコーヒーを飲むと「そうだ」と立ち上がりセシーリアの傍に行き跪く。
「では、僕が食べさせるというのはどうでしょうか?」
「え?」
セシーリアは思ってもなかった提案に固まる。
と、ジャックはセシーリアからフォークを奪うと「ほら、セシーリア、あーんして?」とこちらに向けてきた。
「ちょ、ちょっと待って」セシーリアはそっぽを向きアタフタする。
(ど、ど、どうしようまさかこんなことになるなんて…)
「セシーリア」ジャックは凛とした声でセシーリアの名前を呼ぶと思わず振り返ってしまった。
ジャックは立ち上がると、セシーリアの顎を人差し指でクイと上げる。
「俺から食べるのがそんなに嫌?」
「嫌じゃ…ない…です…」
(そ、そんなに真っ直ぐに見つめないで…)
いつもと様子が違うジャックに、従うしかなかった。
「よかった。じゃあ食べてくれますね」
ジャックはいつもの調子に戻ると、再びフォークをこちらに向けてきた。
セシーリアは頬を若干赤らめながらブロッコリーを食べる。
「うん、よく出来ました」
ジャックは満面の笑みを向け、セシーリアの頭を優しく撫でる。
(たかが、苦手な野菜を食べただけなのにこんなに甘やかしてくれるなんて…)
それでもそんな甘い日々がセシーリアとっても宝物だった。