ドアに手を伸ばした瞬間、優しい声が私を呼び止めた。


「羽花」


「どうしました?」


 ジリっと近づいてくる体温。まるで壊れやすいガラス細工でも抱きしめているかのように私を後ろから優しく抱きしめる。


「あ、あの雷斗くん?」


 何度か抱きしめられたり、密着することはあったけどここまで優しく抱きしめられるのは初めてだ。優しさに包まれて溶けてしまいそう。


「ごめんな」


 か細い、今にも折れそうな、初めて聞く雷斗くんの弱々しい声。


「あの……」


「俺が羽花を守るから、まだ一緒にいて」


 そんな言い方、勘違いしそうになる。もしかして雷斗くんは私の事が好きなんじゃないのかって。そんなことあり得るはずがないのに。


「雷斗くん……ちゃんと怪我が治るまで一緒にいますから大丈夫ですよ」


 きっと私がいなくなったら生活するのに不便だからそう言っているに違いない。


「ん、ありがとう。じゃあまた夜にな」


「はい」


 離された身体にはまだ雷斗くんの熱が消えない。


 心臓がドキドキして、なんだかキュウっと苦しい。熱が出たように身体が熱くて、また泣きそうだ。こんな感情今まで感じた事がない。


 私はこんな温かくて苦しいくてごちゃごちゃした感情を知らない。