「翔ちゃん」


「あの男はなんなわけ? 羽花が人目が苦手なこと知らないのか? 生徒会長と付き合ってるなんて好奇の目で見られるの分かってるはずだろ。今だってこんなに震えてるじゃねぇかよ」


 翔ちゃんは私の震える手を取り握りしめた。
 

「ごめんなさい……」


「羽花が謝ることじゃないだろう。俺はあの男に怒ってるの。羽花、本当にあの男と付き合ってるのか? 本当にあの男の事が好きなのか?」


 ど、どうしよう。こんなに翔ちゃんは私のことを心配してくれてるのに……私はなにも言えずただ黙りこくってしまった。


 はぁと深い溜息。私ではなく翔ちゃんの太くて深い溜息。


「もうそろそろ授業始まるし他の生徒が来たらまずいから俺は教室に戻るけど、お前はすこし休んでから教室に行け。それかもう早退してもいいから、とにかく無理するなよ」


 ずっと変わらない。翔ちゃんはどこまでも優しい人。


「翔ちゃん」


「どうした?」


「ごめんね」


「俺と羽花の仲だろ心配して当たり前、謝ることなんてなにもないよ。ほら、しっかり休めよ」


 ガラッと保健室を出ていった翔ちゃんの背中にありがとうと呟いた。