「じゃあ明日な、もう遅いから早く帰れ。明日待ってる」


「は、はいっ」


 ポンっと私の頭に手を置き、クシャッと頭を撫でながら「いい返事」と微笑み、トクンと小さく心臓が波打ったのと同時に彼は立ち上がった。


 倒れたバイクを起こしてブオンッとエンジン音が夜の空に響く。そのまま彼の背中はあっという間に闇の中に消えて見えなくなった。


(あ……名前、聞くの忘れちゃったなぁ)


「私も帰らないと……ってパンクしてるんでしたぁぁ〜」


 重たい自転車をおしているはずなのに私は何故か気分は高揚していた。


 私は人と関わることが苦手で、友達も殆どいない。久しぶりに家族やバイトが一緒の人、お客さん以外に話した気がする。どうしても初めての人などと話す時は緊張してしまいドギマギした口調になってしまのに、なぜか彼とは普通に話せた。もしかしたら事故のせいで気が動転していたから話せただけかも知れないけれど……


 明日、また彼に会う。また、会える。


 キラキラとした夜空の下を歩く中、私の頭のなかはどんな夜空に光る星よりも彼の太陽のような優しい笑顔がキラキラと頭の中に何度も思い出された。