人混みを抜けた瞬間雷斗くんの顔が耳元に近づいてきた。吐息が当たる距離。


「ということだから俺の彼女役も頑張ってね、羽花」


「いやっ、ちょっと雷斗くんっ」


 そんなの無理に決まってます!


「拒否権なーし、じゃあまた後でな。余計なことは言わないこと、言ったらお仕置きするからな?」


 じゃあな、とスタスタ自分の教室に歩いていってしまった雷斗くん。ヒソヒソと周りのコソコソ話がものすごく耳に入ってくる。完全に噂の的だ。


(私はひっそりと誰の目にも映らないように学校生活を送りたかっただけなのに……)


 どうなってしまうのだろうか……身を小さくしながら教室に向かう。ブーブーと制服のポケットでスマートフォンが震えている。高校生になってバイトをして貯めたお金で買った初めてのスマートフォン、通信量も最低額にして月額は自分で支払っている。私に連絡してくるのは両親か雷斗くん、もしくは幼馴染しかいないはずだ。名前を見ると翔(しょう)ちゃんと表示されている。