国宝級美男子のお世話は甘い危険がいっぱい〜私の心臓いくつあっても足りませんっ〜

「では、お借りしてもよろしいでしょうか?」


「あ、は、はいっ。使ってください」


 フワリと優しく私の手の上からストールを取った女性。凄く大人ないい香りが鼻を突き抜けた。グレイのストールは女性の黒いドレスに良く合った。シミもちゃんと隠れている。


「ありがとうございます。洗ってお返ししますね。では、失礼します」


「あ、はい……」


 なんだかこの場でこんな自分でも人の役に立てたようで少し嬉しくなる。一瞬小学生のころを思い出してしまったが、今の私はもう違うんだから、堂々としていないと雷斗くんの側にいられず、足を引っ張ってしまいます。もう一度深く息を吸い、しゃんと背筋を伸ばした。


 真っ直ぐな視界の先には未だにたくさんの人に囲まれた雷斗くんが見える。でもあの中に入っていく勇気はさすがに出なかった。私はずっと同じ場所に立ち止まり一人壁と一体化して雷斗くんが帰ってくるのを待つばかり。なにも行動を、アクションを起こせない。


(これじゃあ前のなにもできない私と同じような気がします……)