コンコンとノックをし、「親父、入るよ」と雷斗くんが扉に向かって話かけると「どうぞ」と返事が返ってきた。


 雷斗くんの後に続き部屋に入ると異様な空気感、圧縮されてしまったかのように身体が縮こまりそう。


 頭の先から爪先まで値踏みされているようにジロリと見られているのを肌でひしひしと感じる。


「本当に二人で来たのか。まぁ身なりだけはちゃんとしているな」


 よ、良かった。少しだけ肩の荷が軽くなった、ほんの少しだけ。


「あ、ありがとうございます。あ、あの! 本日は一ノ瀬カンパニー創立五十周年おめでとうございます。このような大切なお祝いの席にお招き頂き誠にありがとうございます。本日は彼の恥とならないよう、至らないところも多くあるとは思いいますが精一杯気をつけますので、どうぞよろしくお願いします」


「まぁお手並み拝見といこうかな」


「よ、よろしくお願いしますっ」


 深々と頭を下げた。折り曲げた背中に温かな優しさが添えられ身を起こした。


 力強い雷斗くんの漆黒の瞳が真っ直ぐに私を見る。


「羽花、大丈夫、俺が居るからな。力は抜いてパーティーを楽しもう。親父、俺は挨拶の時だけ親父の隣に立ってればいいんだろ?」


「ああ、そうだ。決して粗相のないように頼むぞ」


「そんなもん分かってるよ。じゃあ羽花行こう」


 すっと手を握られ安心感がジワジワと身体に流れ込んでくる。