なんだかものすごく剣幕な雰囲気で話しかけづらい。雷斗くんはずっと窓の外をみていてなかなか顔が見れず、いったいどんな顔を、表情をしているのだろう。顔は合わせてはくれないけれど繋いだ手はずっとそのまま。しっかりと絡みついて離れようとはしない。


「いくぞ」


「は、はいっ」


 繋いだ手を引かれタクシーを出る。長いエレベーター、静かな密室空間、なんの音も聞こえない。唯一聞こえるのは自分のバクバクと鳴るうるさい心臓音だけだ。


(雷斗くんどうしたんでしょうか。ずっと話さないし、私だけが手を繋がれたままでドキドキしているようです……そんなにトイレに行きたいのでしょうか……)


 玄関ドアを開けるのに離れてしまった手。ずっと繋いでいたからか雷斗くんの手の温もりが直には消えないで残ってくれている。温かくて心地の良い温もりが。


 一言も発さない雷斗くんの背中を見ながら家に入る。本当にどうしたんでしょうか……私なにかやらかしてしまっていたでしょうか?


「ただいまです……っつ? ら、雷斗くん?」