『それって具体的にはどういうこと・・・ですか?』


昔からなんでも具体的な話にして欲しくなるあたしは彼にズバッと聞いてみた。

でも優しくて親切なお兄さんモードのまま日詠先生は

「それは、神林さんならきっと近いうちに自分でわかりますよ。松浦先生も、神林さんは評価と統合分析がきちんとできる学生さんらしいと言っていましたから。それに、さっき出た症状はおそらく命を落とすようなものではないと思うので、もし症状が出た場合でも慌てなくてもいい。」

『はあ・・・』

あたしが求めた具体的な話で返答してくれなかった。


じゃあ、どうしたらいいの?
どうやって対応したらいいの?
また、こんな風に苦しくなったらどうしたらいいのかわからないじゃない


「では、神林さん、ひとつだけ、助言しておきましょうか。」


多分、あたしが余程困った顔をしていたのを見逃せなかったのだろう
日詠先生は、さっき岡崎先生があたしにしたように、あたしの手首をぐっと握ってみせて

「心に蓋をしないで自分の想いに正直になること・・今日みたいな症状を予防する方法はきっとそれだと思います。」

制御できない胸の疼きや息苦しさを訴えてこないあたしに日詠先生は、大丈夫だと安心したようで大きく頷いてくれた。


「でも、それができたら、僕もこんなに追い込まれていないんですけどね・・・」

『日詠先生?・・・先生も、何か・・』


こんなこと、学生さんに話してもいいのかな~と言いながらも、内緒ですよと笑いながら、ゆっくりとぽつりぽつりと身の上話を話し始めて下さった。


『婚姻届を、破り捨てられた?!・・・ホントですか?』

「まあ、そんなところです。」

『レイナさんに、ですか?』

「彼女はそんなことしませんよ。」

『じゃあ、誰が・・・』

「・・・伶菜の身体のことを今、一番理解している人で、伶菜のことを大切に想っている人間に、です。」



確かにホントにただの実習学生が耳にしてはいけないような内容の、超極上イケメン医師日詠先生の身の上話。

婚姻届を書いていたぐらいだから
日詠先生とレイナさんは夫婦になる予定だったはず
しかもふたりはとてもお似合いだと思う

そんな彼女の身体を今、一番理解している人って
産科医師の日詠先生よりもレイナさんの身体を理解している人・・いる・・の?

というか、自分の恋人の身体を理解しているのが男性だったら
あたしがもし日詠先生の立場だったら、多分、いてもたってもいられない
破り捨てられた婚姻届を拾って、それを破った男に何するんだと怒りをぶつけるかもしれない

でも、おそらく、日詠先生はそれができないから、彼の専門外エリアなはずのここでこんなことをしているんだろう・・・