でも、そんなの、きっと気のせい
おそらく岡崎先生は忙しすぎて時間の感覚が鈍くなっている
その上での言葉なんだ


『あと3日、レポート急がないと、不合格になってしまいますね。』

「・・・・・・」

『そんな結果では、さすがに親に申し訳なさすぎて高山に帰れなくなっちゃうので、頑張ります。』

「・・・・帰らなくて・・いい・・・」


俯いたまま聞こえるか聞こえないかレベルの岡崎先生のその小さな声。
なんか岡崎先生のほうがあたしに帰って欲しくないって思っているように聞こえる。

でもそれもきっとそんなの気のせい
あたしの、岡崎先生を見る目が、関わりたくない人種の鬼指導教官から、雲の上の存在である作業療法士に代わってしまったからだ


「あっ、それはだな、その・・あの・・・真緒みたいな・・真面目な学生は・・・居てもらったほうが助かる・・というか・・・あ~、上手く言えねぇな。」

『そう言って頂けて嬉しいです。岡崎先生なりの励ましでも。』

「・・・励まし・・・ね・・・。」

岡崎先生は眉を下げて苦笑いしながら、まるで奥歯に物が詰まっているような口ぶりでそう呟いた。




実習15日目
残りあと3日


帰らなくて・・・いい
岡崎先生が口にしたその言葉が甘く切なく聞こえるのは
多分きっとあたしの気のせい

あたしの中で岡崎先生が、できれば関わりたくない鬼指導教官から雲の上の存在である作業療法士に格上げされちゃったせいだ

いつか言われてみたいな
真緒、帰って欲しくないって・・・・

でもそんなの、きっと恋愛漫画の世界のみでの言葉だよね?
今までそんなこと考えたことなんてなかったのに

どうやらあたしはこの実習で
“きっと気のせいなのに甘く切なく聞こえちゃう症候群”に罹患してしまったらしい

この症候群
こんなに苦しいんだ
ホント、誰か、治して・・・