大事なところでツメが甘いあたしの、耳を塞ぐ手の力が緩んでしまっていることによって聞こえてきてしまった、岡崎先生の、真摯なその声。


なんかあたしが岡崎先生にとって特別みたいに聞こえちゃう
そんな都合のいい誤解したら、勘違いしちゃって
あと3日で実習が終わってしまうことが嬉しいどころか、寂しく思えてしまう

でも岡崎先生は実習指導者で
それでもってあたしは実習生だよ?

実習が終わればその関係も終わる
ただそれだけの関係なんだから・・・


『あたしはただの・・・実習生ですから・・別に・・・』

「俺にとっては、真緒は大切な・・・ひ・・・実習生だ。」

『大切なって・・・』


実習生という単語がくっついている

だけど、岡崎先生が紡いだ、大切という言葉が
こんなにも胸にじんわり響くなんて、
これまで生きてきた人生の中で初めてかもしれない


岡崎先生とレイナさんとのハンドセラピィを見て
彼は本当に凄い人なんだって肌で感じた

自分自身も長谷川さんのレポート作成の指導をしてもらっている中で
独自の視点を持つことの大切さを教わっている

そういう経験を通じて、何もできない作業療法学生の私にとって岡崎先生は
現在では身近な憧れという存在を超えて、雲の上の存在に想えてしまう

そんな人に、大切な実習生と言ってもらえるなんて
ホント、実習生冥利に尽きる


「だから誤解されたくないんだ。」



岡崎先生はプライベートではいろいろと色恋沙汰とかもあるかもしれないけれど
実習生のあたしにとっては、作業療法の現場で立っている岡崎先生がリアル

だから誤解なんてない
誤解なんて絶対にないはず


『あたし、誤解なんてしません。だから、実習あと3日ですけど、もっともっと勉強教えて下さい。』


あたしはぐいっと振り向いてから、岡崎先生の真正面に立って彼に向ってはっきりそう告げた。
彼が言いたかったであろう、“食事に誘われたのはホント”に続く言葉を遮るように。


そんなあたしに彼はいつもみたいに
“よしわかった。覚悟しろよ、まお!”って挑戦的に煽ってくる

そう思ってた


でもこの時は

「実習、あと3日・・なんだな・・・わかってはいたけど・・・」

気のせいなのかもしれないけれど
あたしがこの前、もうすぐ実習が終わってしまうことを寂しく想った時のような空気が不意に視線を逸らした岡崎先生からもそれが伝わってくる