大事な訓練中に水を差されたこともあってか、整形外科医師の前でも不機嫌オーラ全開な岡崎先生。
これ以上揉めたら大騒ぎになりそう・・・

近くにいた松浦先生も同じことを感じたのか、いったん森村先生から距離を取るように岡崎先生の腕を引っ張った。


「伊織!森村先生の挑発に乗るなって!それに珍しいな。訓練中は周囲が何していても全く気にならないぐらいゾーンに入るお前がさ。」

「あの距離が・・・距離が近いのダメです。あの距離はアウトでしょ!」


兄のような存在である松浦先生に忠告されて般若はしょんぼりしながらも、声を絞り出すように距離・距離と連呼しているところをみると、まだちょっと不機嫌。

そりゃ、新型コロナが流行している今、
距離という言葉は気にしなきゃいけないコトだけど

でも、距離とか、リトマス試験紙とか
それで揉めるとかどういうことだろう?


「まったく・・・とりあえずレイナさんのflexser、そろそろ縫合部が硬くなってきて逆にre-raptureするかもしれない時期だから、今の伊織ではちょっと危ない。だから俺が代わる。」

「すみません・・・確かに今の俺じゃそういうリスク招いちゃうかもしれないんで・・・」

「お前は神林さんのほう、見てやって。それにそろそろお前の訓練見学させてやってよ。俺の手の外科症例はほぼ全例見終わっているみたいだしさ。」

「確かにそうですね・・・じゃあ、レイナさんのほうは、後はスプリントの微調整だけなので、続きお願いします。」

「了解!急な代行訓練を引き受けてくれてありがとな。」


あたしと同様に、この騒動にどうしたらいいのか困った顔をしていたレイナさんのところには、今、一番冷静な人である松浦先生が向かった。