『あっ、あたし・・・あれ?』
「食われる・・ぞ・・・相手が悪い・・・と。」
般若は珍しくぎこちない声色でそう言いながら、あたしのほうへ振り返る。
珍しいのは声だけではなく、瞳も若干揺れているようにも見える。
いつもは、世の中かったるい、面倒なことはやめて合理的に生きていくほうがいい・・って涼しい顔をして生きているように見えるのに・・・
そんな彼と目が合った瞬間、体がビクッとした。
背中に電気が走るようなその刺激によって、
般若の上着の裾を握ったままだったあたしの手が反射的に離れた。
あたしの手からようやく解放された彼は、はぁ~っと安堵しているような大きく息をつく。
「やっぱり俺が送ってきて良かった・・・盛りのついたオスだったらあっという間に食われてたぞ。」
『えっ?!』
手が勝手にやっていたことが
食われるとか、なんか大事になるかもしれなかったなんて
しかも、般若相手に
あたし、いったいどうしちゃったんだろう?
なんかもう穴があったら奥深く沈んでしまいたいぐらいに恥ずかしい・・・
「まったく・・・まだまだ指導のやりがいがありそうだな、まおは。」
『はい・・そうです・・・ね。人生経験、浅いので・・・食うとか、食われるか、どうしたらいいのかわからない・・・ので是非教えて下さい。』
溜息混じりに苦笑いしながらそんなことを言ってくる般若に対して
あたしはもう開き直って半ばやけっぱちでそんなお願いをする。
そんなあたしを見て、明らかに困った顔をする般若。
「・・・・ば、ばかっ。そういう時はお断りしますって言うんだよ。勘違いするだろ?・・・俺のほうが。」
『えっ?』
勘違いするって、俺のほうがって
どういう意味?



