「あ、ここが寮だよな?」
『あっ、はい。今日はありがとうございました。焼肉、美味しかったです。』
「美味かったんなら、まあ、よかった。」
焼肉を奢ってもらったこと、ここまで歩いて送って下さったことのお礼を言いながら、もうこの時間、終わりになっちゃうんだ・・なんて思ってしまう
ついさっき、沈黙になった瞬間には、残り3分が長く感じていたのに、だ
「明日ぐらいはゆっくり休めよ。ここんとこレポート以外でも忙しかったみたいだしな。」
『ありがとうございます。』
「今晩は寒くなるから毛布を余分に被って寝ろよ。」
『あ~ハイ!』
岡崎先生は般若顔ではなく余裕のあるお兄さん顔でダウンジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、空を見上げて、はぁ~と大きく息をついた。
冷え込みが厳しくなったせいか、吐く息が真っ白にはっきり見える。
きっとこの後、いつものように、“お疲れ様”って言って目の前からいなくなるんだ・・・そう思ったけれど・・・
「日曜日だからって、眠たいから朝飯抜きとかはダメだぞ。」
『・・・・あ~、ハイ。』
「疲れたからって歯磨きしないまま寝るなよ。」
『歯磨きですか・・・はい、はい。』
お兄さん顔のままの岡崎先生の世話焼き発言がまだ続いた。
般若~、あなた、あたしのお母さんかっ!
でも、いつもは気だるく面倒なことはしません、言いませんの般若なのに
あたしの世話を焼くようなことを真顔で言ってる姿に、ちょっと笑えて、ちょっとほっとしているあたしがいる
まだこの世話焼き発言、続けてくれるんだって・・・
でも、岡崎先生はあたしの心の中を察していなかったのか、突然、くるりと体を反転させてあたしに背を向け
「じゃあな・・・おやすみ・・真緒。」
と言ってこの場から立ち去ろうとした。
突然の、岡崎先生世話焼き発言終了
いつものあたしなら、やっと終わったって胸を撫でおろすのに
いつもと異なり、聞かれされたこっちがなんだか寂しくなるような、そんな甘いおやすみを耳にしたこの時のあたしは
「まお?」
『・・・・・』
「真緒?」
『・・・・・?』
「おい、バカっ、こういうのはだな~、勘違いされるぞ。」
手が勝手に、岡崎先生のダウンジャケットの裾をきゅっと握っていた。



