お互いに気まずい感じ
あたしは正直に否定するしかなかったし
般若は否定された話題をなんとか工夫して続行する話術を持っていなかったようで
『・・・・・・』
「・・・・・・」
気まずい空気のち沈黙
今歩いているところは、寮から3分くらいのところだと思う
あと約3分
このまま沈黙のままでいるのはなんとも苦しい
もしかして、さっきの焼肉屋で般若が言い放った“真緒だから・・・だから言うんだ”の言葉の意味を今、聞くときかもしれない
でも、今、それを口にしてもっと気まずい雰囲気になったら、きっとあたしは後悔する
けれども今、何を話したらいいのかわかるぐらいの人生経験が豊富ではないあたし。
今のこの困った状況を打破したのは
「そういえば、高山からうちの病院まで来る時に、名古屋駅で乗り換えただろ?乗り換え、ややこしくなかったか?」
まさかの電車ネタを振ってきた般若岡崎先生だった。
なぜそのネタを持ってきたのかは謎だったけれど、
高山から乗ったJRの特急電車を名古屋駅で降りてから、私鉄の在来線に乗り換えようとした時に向かった駅
その駅のホームが乗車専用ホーム上下線1本ずつ、それらに挟まれた場所に降車専用のホームが1つ
つまり降車ホームは上下線共有
あたしもちょっとびっくりした案件で・・・
『どこで乗ればいいのかわからなくて、泣きそうな顔をしていたら、駅員さんが声をかけてくれて・・・行先を告げたら乗車場所まで連れて行ってくれました。』
あたしもその話題にすんなりと食いついた。
「想像通りだな~。俺も初めてあのホームに降り立った時は正直戸惑ってな。目的地の駅名がわからないまま適当に乗ったら、目的地と正反対の方向へ連れていかれてしまうんじゃねーかって・・・」
『私もまったく同じこと思って泣きそうになりました。』
「でも、こんな狭くて限られたスペースで、電車と乗客をさばくなんてなかなかだよな~。分単位で行先が変わるのに。」
『そうですよね!途中から人間ウオッチングしていたら楽しかったです。乗客も駅員さんも無駄な動きがほとんどなくて。』
今日初めての・・・岡崎先生とあたしとの“同じ想い”
しかも実習についての話ではなくて、プライベートな話が中心
こういう時、指導教官とかは実習に関する話をしてもおかしくなさそうだし、
今までの般若なら間違いなくそうしていただろう
「俺が松本から名古屋へ出てきた時に驚いたこと、ダントツトップは名古屋駅のホームだったからな~。懐かしいよ。」
『ですよね~って岡崎先生、松本って長野県の?松本がご出身なんですか?』
「ああ。長野県松本市だな。」
『もしかして、遠足は上高地でした?』
「当然だろ?・・そこ以外、どこがあるんだよ。」
『うちも・・高山も遠足は上高地でした。ちょっとバス乗ってしっかりハイキングして、ザ・遠足。王道ですよね~』
さっきも般若自ら、プラネタリムの話を振ってきた
そして沈黙の後の今も、電車ネタ提供
今日という日の般若は、実習とはなんぞやという空気を醸し出さない
逆に相槌を打ちまくる心地よさまでも感じさせてくれるぐらいに・・・
もしかして、そんな空気を醸し出さないように敢えて配慮してくれているのかもしれない



