そんなあたしに下柳先生はがっかりすることなく、“神林さんは美人というよりかわいい系だよ。”と小声で囁き、テーブルの上に置いてあった会計伝票に手を伸ばした。
予想外の誉め言葉につい頬が緩んだあたしの目の前で、動いたもうひとつの大きな手。
「たまには先輩面させろって!」
下柳先生が今にも手にしようとしていた会計伝票を強がった声でそう言った岡崎先生がひらりを奪い取った。
「じゃあ、お言葉に甘えて。お先に失礼します。」
強がった先輩に恥ずかしい想いをさせないようにまた気を遣ったのか、下柳先生は般若の手に渡ってしまった会計伝票に再び手を伸ばすことなく、いつもの癒し系スマイルを浮かべてから般若に頭を下げた。
その直後、あたしに近寄って、“高山の旅先案内、楽しみにしてる。とりあえずレポート頑張って!”と耳元で囁いた下柳先生はダッフルコートをささっと着込んで店を後にした。
こうやってそこに取り残されてしまったあたし。
せっかちな般若に“じゃあ、行くぞ”と促され、急いでコートを羽織り、彼の後ろを追いかける。
『あの~コレ、あたしが食べた分です・・・』
とりあえず文句を言われないように、多分これで会計が足りるであろう五千円札を般若の前に差し出す。
「ば~か。勝手に奢られろよ。学生のくせに。」
あっさりと返却。
ついでに会計後にお店から渡された口直しのハッカ飴付きで。
「行くぞ。今夜はかなり冷えるらしいからな。」
『は、ハイ!!!!』
いつのまにか般若のペース
ついさっきは情けない声で下柳先生とあたしを心配させてくせに!
「あ~今日は冷えているせいか、星がたくさん見えるな~」
『そうですね・・・』
「名古屋の伏見ってとこにある科学館のプラネタリウムがちょっと前にリニューアルしたんだけど、ド迫力だぞ。プラネタリウム以外でも展示物がいちいちマニアックで。特に元素の展示なんて感動ものでさ・・・行ったことあるか?」
なぜか今日はあたしよりも饒舌な般若。
いつもはめんどくさがりやで、せっかちな彼なのに
星とかプラネタリウムとか・・そんな広大でロマンティックな世界に興味があるのか?
しかも、あたし、名古屋在住ではなく、岐阜県の飛騨高山からやってきてまだ2週間
しかも実習中だから、病院と寮の往復してしてこなかったのに
科学館に出かける時間なんて皆無だよ~
『いえ、行ったことないです・・実習中ですし。』
「あ~・・・そうだよな・・・名古屋の人間じゃないしな。」



