「レポート!!!」

あたしの瞳の奥をじっと見つめる岡崎先生。
その瞬間、今朝の、絵里奈の、愛されてる岡崎先生に・・発言が頭の中にふっと過ったあたし。

『・・・出しました、けど・・』


勝手に赤らむ頬をどうしていいのかわからず、視線を逸らす。


「熱でもあるのか?ほらっ。」

『ひゃっ!!!』


岡崎先生からのまさかの、おでこ温度手のひら測定。
こんなこと、親以外にされたことないのに。


「そんなにびっくりするなよ。でも、おでこは熱くはないぞ。」

『・・ないです。元気です。』

「じゃあ、なんでそんなにビビってるんだよ?」


ビビッているのは、今朝の絵里奈の”岡崎先生に愛されている発言”のせい
でも、それ以上に今は般若あなたのせいです
あたしのおでこに当てたその手からは、ハンドクリームのものと思われる柑橘系の爽やかな香りがほのかに香ってきて
それによってもなんかクラクラします
おでこに手を当てられるとか、もうどうしていいのかわからないです、あたし


「ったく、俺は怒っているワケじゃない。長谷川くんのおにぎり好きっていう情報、いいじゃないかって褒めようとしていたんだよ。」

『へっ?』


長谷川さんのおにぎり好き情報

それは、昨日、彼の病室で評価をさせてもらった
けれども、途中でレントゲン検査や筋電図検査に呼ばれてしまったのか、あたしが行っていたROM(関節可動域)検査の途中で彼がいなくなり・・・
そのまま業務終了時間でおしまい

だから、今日提出していた長谷川さんレポートは、ROM検査と雑談から得られた情報のみしか書けなかった。
しかもレポートの大半は雑談内容。
学生であるあたしが真っ先にできると思ったことが雑談だったからだ。


でも、朝の絵里奈とのやりとりのことで頭がいっぱいで、病院へ来てレポートを提出した時もレポートが不充分だったことなんか構っていられなかった

だからレポート!!!と言われて、瞬時に般若に怒られることが頭を過ったけれど
まさかの、般若、いや岡崎先生からの褒め言葉。


「へっ、じゃねーよ。いい情報だよ。もう少し検査が進めば良かったんだけどな。ま、今後に期待ってとこだな。」

『・・・おにぎりがいい情報・・・ですか・・・あ、ありがとうございます。』



長谷川さんのおにぎり好きがよい情報なんて
ホント、意味不明
でも、岡崎先生に直接褒められることなんてなかったから、とりあえずいいか~

「でも、レポート提出日は変更なし、予定通りだからな。」

今日は、あたしのことを褒めるとか神対応だと思ったのに
般若塩対応通常運転の大どんでん返し!


その横から聞こえてきた鬼気迫る女性の声。

「呼吸器の作業療法・・・大学ではあまり教わっていないかもしれないけれど、それにしても、理解してなさすぎる!」

『すみません・・・自分なりに勉強したつもりなんですが・・』


絵里奈と
彼女のケースバイザーである長野先生。