『だって、般若だよ?塩対応、日常茶飯事だよ?あたし、ヤツの下僕だよ?
草取りだけじゃなくて、廃品回収まで行かされるかもしれないんだよ?」

「一生懸命否定するところも怪しいよ~もしかして真緒にも春が来た~?ひゅうひゅう♪」


完全にひやかしモードに突入した絵里奈。
こうなった彼女がなかなか止められないことは
親友であるあたしが一番知っている。



『あっ、そうそう台所でゴキブリが出たんだった。』

「うそ~。」

『さっき音がしたもん。退治してくる!』


右手に殺虫剤、左手には絵里奈から手渡されたあの紙を持って、彼女の前から逃げるように台所に駆け込んだ。

もちろんゴキブリなんかいない
真冬だから

でも絵里奈に、逃げた~とぶつぶつ言われないよう、とりあえず殺虫剤のシュッとひと吹き。
殺虫剤独特の苦い臭いに顔を歪めずにはいられない。



『愛されてる・・・か~。うそ~。そんなはずないじゃん。あの意地悪般若がさ~』



その臭いのせいなのか、口では悪態をつくのに、手に持っていたあの紙がなぜか愛おしく感じたあたしは、丁寧に八つ折りしてメモ帳に挟んでしまった。

『おなじないお守りってとこよ。そうそう、手の震えも止まったしね。』

あたしはあの紙をメモ帳に挟んでしまった理由を必死にとってつけた。
そして何事もなかったかのように、ゴキブリ退治したよと絵里奈を呼んだ。



そして、ゴキブリな苦手で恐る恐る近寄ってきた絵里奈に、またひやかされないように、早くしないと遅刻するよと急かしながら、朝食、洗濯物干しを済ませ、病院へ向かった。

このまま、絵里奈から逃げ切れた
そう思ってた。

けれども


「おい、まお!」

リハビリ業務終了後のフィードバック(実習指導者による学生指導)の時間。
この人からは逃げられなかった。