その後。

「前島さん、もし宜しければですが・・・今後の方向性を考える上で私どもリハビリスタッフが前島さんやご家族、ケアマネジャーさんと一緒にご自宅に訪問させて頂きたいと考えています。」

下柳先生がそう言いながら、持っていたファイルから福祉用具の写真が掲載されているパンフレットを前島さんの目の前に差し出した。

福祉用具とは・・・
[心身の機能が低下し日常生活を営むのに支障がある老人又は心身障害者の日常生活上の便宜を図るための用具及びこれらの者の機能訓練のための用具並びに補装具](日本福祉用具供給協会HPより引用)
というもの

大学でも教科書で学んでいたけれど、必要とされる人へ実際に紹介する様子を見るのは初めて


「これ・・・」

「そうです。これらを使って段差を解消したり、据え置き式の手すりを置いたりすることで安全に動けるようにご自宅の環境を調整してから退院するようにしようと考えています。」

「先生がうちに来てくれるの?」

あたしと同様に福祉用具の存在を初めて知ったようにまじまじとそのパンフレットに目をやる前島さん。
しばらくそれを眺めているうちにさっきまでの困惑した前島さんの表情が一転して驚きの表情に変わる。
下柳先生から気休めな言葉なんかではなく、具体的&前向きな計画を提示されたことによって。


「ええ。前島さんにもご自宅内で実際に動いて頂きながら、自宅で生活できるかを具体的に評価し環境調整を検討していきたいと考えています。」

「・・・家で過ごせるかも・・しれない?」

たった今、前島さんの瞳はこれまで見た中で一番イキイキしている
下柳先生からの提案にて、自宅で生活できるかもしれないという希望が見えたからだろう


「過ごせるようにするためにはどうしたら良いかを前向きに考える機会になるといいなと思っています。退院前指導という形で病院スタッフがご自宅に訪問させて頂くことができますので、その制度を利用して訪問させて頂きたいと考えていますが・・・宜しいでしょうか?」

「それは心・・強い・・・先生、どうかお願いします。あと、神林先生もよろしくお願いします。」

『えっ?』


突然の、前島さんからの“神林先生”呼びに
あたしは反射的に驚きの声を漏らす。
その反応に、さっきは困惑した表情を浮かべていた前島さんも笑顔であたしの反応を見ている。