『えっ、あっ、その・・・・』


学生という立場であることもあり、彼からの問いかけにどう返答したらいいのかわからず口籠ってしまう。


「自分、長谷川くんの担当医なんだけど、俺も苦戦中。」

森村先生は首を傾げながら私の瞳の奥を覗き込んで小さく笑う。


いつものあたしなら
レポートを作成する上で担当医からもお話を伺う機会を作って頂く必要があったのだけれど、どうやらその手間は省けたらしい
とニンマリするところな筈なのに
この時は、あたしと同じ想いをしている人かもしれない・・と
目を見開かずにはいられない。


「彼の右腕、事故による損傷が激しくて、なんとか切断は免れたんだけど、腕神経叢へのダメージが大きくてね。昨日も、“なんで腕も指も動かなくて、手が痺れるんだ!!!!”ってパニック気味に詰め寄られたばかりでさ。」


森村先生は机の上に置いてあった肩関節の模型を手に取り、脱臼しそうな方向にぐりっと上腕骨部を捻った。


「首だけでなく、こんな風に肩も捻じれたことによっても腕神経叢が酷く傷つきゃ・・・心も酷く傷つく・・・よな~。」


森村先生は肩の模型をじっと見つめながら大きく溜息をつき唇をぎゅっと噛んだ。
その横顔からは痛いほど悔しさという感情が伝ってくる。


でも、未熟どころか何の知識も経験もないあたしが
どう声をかけていいのか戸惑う
カチコチと時を刻む壁掛け時計の音が
早く何か言えよと急かしているように聞こえてしまうぐらいに


そんなあたしを救ってくれたのは

「マオちゃん、ひとりで焦っちゃダメだぞ。僕らはチームなんだからな。」

優しい声でそう言いながら、少し潰れかけていたメロンパンをあたしの目の前に差し出した森村先生だった。