「ねえ、真緒~、松浦先生・・・カッコいいよね?」


やっぱり
松浦先生のイケメンぶりに食いついたな、絵里奈よ
臨床実習初日に緊張感なし、イケメン探しする余裕のある絵里奈をギロリと睨まずにはいられない



「でも、松浦先生、あたし達ふたりとも、指導してくれるのかな?」

『えっ、わからない・・・』

「レポート、ふたりぶんとか見るの大変じゃない?」


実習初日で緊張しっぱなしのあたしは指導者の手間とか気にかけている余裕なんてない


「絵里奈は~、松浦先生がいい!」



自ら指導者を選ぶ余裕もない

先生達とどう話をしたらいいのか
自分がどこにいたらいいのか
どうやって治療現場で見学すればいいのか
どうメモを取ればいいのか
昼食はどこで食べればいいのか
トイレはいつ行ってもいいのか
実習課題はどうやったらいいのか

言い出したらきりがない疑問や不安に押しつぶされそうになっていたから


「伊織・・・前から言っておいただろ?」

「俺がバイザーやるんすか?」

「ああ、上からの業務命令だからな。」

「マジっすか。」



廊下から聞こえてくる男の人達の声。
説得している人と説得されている人のやりとりが。


ガチャ!!


「お待たせしました。もうひとりの実習指導者です。伊織、自己紹介して。」


松浦先生がドアを開けた直後、後ろを振り返り、そう言いながら誰かを引っ張るような格好になる。


「・・・あ?俺が?」


面倒くさそうにそう言いながら姿を現したのは・・・
短くカットされた黒髪全体をワックスか何かで軽く逆立てていて、がっちりとした上半身でラグビーでもやっていそうな男の人。
紺色の半袖スクラブ(手術着)姿のせいで、腕も逞しくみえる。

パッチリ瞳の松浦先生とは対照的な切れ長で鋭い目のその人はであたし達をギロリとひと睨み。

この体格、この目つきイコール猛獣
この人に逆らったら命の危機に至ってしまうかもしれないと思わずにはいられなかったあたしは思わず息を呑む。
いつもはこういう状況も面白がりそうな絵里奈まで息を潜めていて、なんだか落ち着かない。

「そうだよ。」

そういう空気の中でも、松浦先生は臆することなく、どこか涼し気。
彼が猛獣遣いに見えてくるぐらい、今のあたしは勉強ばかりしていて人間関係とかにはちょっと疎い過去のあたしとは異世界に住んでいるように思えるほど頭の中が混乱している。


「・・・あ~、岡崎です。それじゃ。」


そんなあたしの目の前で、椅子に腰かけることなく、肩幅の広い大きな体を少し屈めてぶっきらぼうに挨拶して立ち去ろうとした猛獣・・ではなく岡崎先生。

でも

「おい、オリエンテーションも一緒にやるんだよ。」

「あ~マジっすか。森村先生にオペ見学呼ばれそうなんだけど。」


隣にいた松浦先生にスクラブを引っ張られて、般若顔になっている
猛獣プラス般若顔

正直、怖い
第一印象、最悪