『絵里奈。午前中、どこに行ってたの?』

「呼吸器科病棟。」

『呼吸器?』

「そうだよ~。脳外科とか整形外科とかは勉強してきたのに、呼吸器はノーマークだったの。長野先生、呼吸器科にも患者がいるらしい・・・」


食堂での昼休み。
絵里奈は泣きそうな顔で海老天ぷらうどんをすすった。


『呼吸器疾患なんて、内科学で勉強した程度しかわからない・・・』

「そうでしょ~。それで評価しろって言われたら何していいのかわからない・・・・」


さすが診療科が多岐に渡るこの病院。
名古屋市内でも有数の総合病院だって大学の教官が言っていたっけ?


「食べたら、さっそく呼吸器リハビリの本を借りて読む・・・」


よっぽど長野先生にいろいろ言われたのだろうか?
いつもは元気を振りまく絵里奈がしぼんでみえる
まるで、絵里奈が食べている天ぷらの衣がだし汁を吸ってふやけてしまい、姿がはっきりと見えなくなっている海老みたいに


「真緒は?」

『あたしの症例は脳外科患者。脳出血と多発性脳梗塞併発しているみたい。』

「真緒も難しそうだね・・・」

『そうだね。でも頑張るしかないよね。』


あたしは自分が食べていた明太子スパゲティーをすすりながら、少しでも絵里奈に元気を出してもらおうと、一緒に買っておいたデザートの杏仁豆腐を絵里奈のお膳の上に載せてあげた。


「ありがと、頑張る。」


貴重な息抜きの場所である食堂。
今日の昼休みはお互いに励まし合う場所になった。