そしてふたりで病院の玄関に停車していたタクシーに乗りこんだ。
隣に座っている彼が運転手さんに告げた行先は、名駅。
『名駅って名古屋駅のことですよね?』
「ああ、森村先生にタクシーチケット押しつけられたからな。マオちゃんの時間を奪ってしまったからタクシー乗ってけって。」
『名駅で夕ごはんですか?』
「そう、森村先生が、今日のオペ協力のご褒美でレストラン予約してくれているんだ。マオちゃんにご馳走したいから奢るってさ。本人は当直だから来れないけれど。本当は、夕飯を俺からの誕生日プレゼントにしようかと思ってたんだけど。森村先生に横取りされたな。」
本当に森村先生はいい人
レイナさんにベタ惚れみたいだけど、恋のライバルがあの日詠先生じゃなきゃ、熱烈応援するところなんだけどな~
『森村先生にお礼を伝えて下さい。嬉しい誕生日になりましたって。』
「誕生日・・なんだよな・・なんかバタバタしてごめんな。」
『いえ、絶対忘れられない誕生日になりました。』
「真緒、誕生日、まだ終わってないぞ。」
『あ~、まだ18時ですもんね。』
「そうそう、店が閉まる前に行かなきゃな・・・」
丁度タクシーが名古屋駅前で停車し、降車したタイミングであたしは岡崎先生に手を引かれ、キラキラと輝く百貨店の店内へ連れていかれた。
『あれっ?レストランに行くんじゃ・・・』
「その前に、俺からの誕生日プレゼントがようやく決まった。」
『プレゼント・・ですか?』
「そう、タイムリーなね。すみません・・・彼女に似合う、カジュアル過ぎず、かしこまり過ぎずの、服、選んで下さい。」
手を引かれたまま彼に連れていかれたのは、ちょっと大人で高級感溢れるアパレルショップ。
「かしこまりました。かわいい恋人様ですね。お任せ下さい。」
近寄ってきてくれたのは、同性であるあたしでも、凛として素敵な女性に見えるショップの店員さん。
彼女が着用している上下セットアップの服も上質そう。
カットソーにスキニーデニムというカジュアルな格好のあたしよりも、彼女のような女性が今日の、おしゃれモードな岡崎先生の隣を歩くのにふさわしいような気がした。
『あの~私、初任給、両親へのプレゼントで使ってしまって・・・』
「ば~か。森村先生ばっかりカッコつけて、俺にもカッコつけさせろって。誕生日プレゼントだよ、真緒の。」
『でも、ここ・・・』
「レストラン、行くんだろ?誕生日ぐらいちょっと背伸びしてもいいぞ。真緒はなにやってもいちいちかわいい・・・から。」
岡崎先生はそう耳打ちをしながら、あたしの背中を軽くポンっと押して、店員さんの前に差し出した。
それにしても、いちいちかわいいとかって
ひとつひとつかわいいって100%前向きに解釈してもいいのか
文句言いたくなるようなかわいさって、ネガティブ含む前向きに解釈してもいいのか
日本語って難しい~
でも例え後者のほうが甘じょっぱくて、岡崎先生らしい
その甘じょっぱい彼にあたしはめろめろにされているから
「お客様に似合う服、早速、イメージができました。服を試着室へお持ち致しますので、どうぞこちらへ。」
「真緒、せっかくだから楽しめよ。服選び。レストランの時間はまだ大丈夫だから」
『はい!!!』
せっかちなはずの彼からの、その言葉にも感動しながらあたしは店員さんと楽しく服選びをした。
「お客様、お連れ様とよく似合っています!」
「そうだな。大人な真緒だ。」
選んだ服はアイボリーカラーのフレア袖のジャケット風ボレロに深緑のちょっとタイトなワンピース。
その格好にあうサンダルも選んでもらった。
岡崎先生も、馬子にも衣裳なんて言い出しそうな笑顔。
「よし、行こうか、レストラン。」
スマートにクレジットカードを店員さんに渡しながら会計を終えた彼と一緒に歩いて予約してあるレストランへ向かった。



