「先に腱縫合しておくから、岡崎クンはその間にマオちゃんを手術見学室へ案内してから、手洗いしてオペ室へ来て。」
「わかりました。森村先生。縫合腱滑走のトライまでに間に合うように行きます。」
「さすが、ハンドセラピスト!わかってるじゃん・・じゃあ、マオちゃん、よく見ててあげなよ。」
『わかりました!!!!』
そのふたりのカッコいい関係に、妹みたいに絡めることに嬉しさを感じながら、あたしは岡崎先生と一緒に手術見学室へ向かった。
手術見学室は手術室の上方にあるガラス張りの部屋であり、手術を上から見下ろすことができる
手術室へ入室するには、厳重な手洗いをしなくてはならないらしいけれど、この部屋はその必要がない。
あたしの手術見学に関しては、森村先生から患者さんへ許可を得て下さったそう
ハンドセラピストではない作業療法士のあたしが手術見学できる機会はほとんどない
本当に貴重な機会
まさか、勉強名目だけど岡崎先生に会いにきた名古屋行きが、
本当に勉強目的の名古屋行きになるなんて
高山に帰ったら両親に胸を張ってきっちり報告できる
自分が従事している病院では経験できないことをさせて頂いたんだよ・・と
「お待たせしました。作業療法士であり、手の外科疾患のリハビリを専門としておりますハンドセラピストの岡崎と申します。手の状態を確認しながら、手術後に装着して頂くスプリントという装具を作成させて頂きますので宜しくお願いします。」
岡崎先生が手術室で患者さん相手に仕事していたことも
作業療法士の誰もができる仕事ではない仕事をしていたことも
今まであたしが見たことのない岡崎先生の、手術着で活躍する姿が本当にカッコ良かったことも
血を見るのが苦手なあたしが、出血を伴う手術を食い入るように見ていられたのも、森村先生の執刀と岡崎先生のスプリント作成技術が本当に凄かったから
それら全部、両親に報告してあげよう
お母さんには、こっそり謝らなきゃ
“お弁当の中身、今回は使えなかった~”とも
「月曜日から作業療法室で訓練始めます。縫合した腱を癒着させずに完治を目指します。痛みも強いかと思われますが一緒に頑張りましょう。」
手術室に取り付けられているマイク越しに聞こえてきた、実習以来で久しぶりな岡崎先生の凛々しく患者さんを励ます声に
『あたしも頑張ります!!! 作業療法士として未熟すぎて辛い日々なんてふっ飛ばします!!!』
患者さんではないあたしまで勇気をもらった。



