「戸塚さん、今からいい?」


絵里奈のケースバイザーになった長野先生に呼ばれた絵里奈は珍しく緊張した面持ち。
誰とでもすぐに打ち解ける傾向が強い絵里奈らしくないその表情を凝視していたあたし。


「神林さん、僕らも今からいいかな?」

あたしは自分のケースバイザーの下柳先生に呼ばれた。

下柳先生は4年目の作業療法士さん。
ということは、浪人とか留年とかしておらず、大学院卒でなければおそらく25、26才。
ワックスかなにかで髪の毛をつんつん逆立てており、スクラブ(手術着)もピタっと着こなしているオシャレな空気が漂う男性。

「実習、少しは慣れてきた?」

『・・なかなか。』

「そうだよね~。岡崎さん、なかなかだもんね。」

『・・・・・。』


「わはは、返答難しいこと聴いちゃったね。」

「・・いえ。」


般若、いや、岡崎先生とは真逆のフレンドリーに話しかけてくれる下柳先生。

松浦先生も優しいけどれ、松浦先生と私が若干年が少し離れていることもあってか、話をするときには今も結構緊張する。

でも、年齢も自分に近いこの人なら相談しやすいかもしれないとこっそりと安堵する。




「じゃあ、今日1日は僕の訓練についてきてくださいね。」

『はい。』


自分の口からすんなりと出たこの“はい”はこの実習初めてで、自分でも驚かずにはいられなかった。



実習4日目

あたしのバイザー
スーパー:般若鬼 & ケース:フレンドリー

絵里奈のバイザー
スーパー:仏 & ケース:厳しそう





松浦先生という温室でのびのびしていた絵里奈がこの実習で初めて肩を落とした日

そんな絵里奈が少しでも元気がでるように明日はあたしが絵里奈のパンにジャムを沢山塗ってあげよう・・・と自分のことでいっぱいいっぱいだったこの実習で初めて友人への思いやりの心を持てた日